「code of the film」vol.12

撮影:濱村健誉
スタイリング:(蒼井)森上摂子 ヘア&メイクアップ:(蒼井)石川智恵
文:松坂 愛
(蒼井)イヤリング(7,000yen) / ジェーン スミス(UTS PR tel.03-6427-1030)
ブーツ(28,000yen) / ファビオ ルスコーニ(ジャーナル スタンダード 表参道 tel.03-6418-7958) ※共に税別
白石和彌 KAZUYA SHIRAISHI
74年生まれ、北海道出身。95年に中村幻児監督主催の映画塾に参加。以後、若松孝二監督に師事し、行定 勲監督や犬童一心監督などの作品にフリーの演出部として携わる。10年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編監督デビュー。他、『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』などを手掛ける。待機作として、来年公開の『サニー/32』、『孤狼の血』が控える。
蒼井 優 YU AOI
85年生まれ、福岡県出身。99年にミュージカル『アニー』で舞台デビュー。岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』で映画初出演。その後、『花とアリス』や『ニライカナイからの手紙』、『フラガール』などで主演を務める。近年の作品は、『アズミ・ハルコは行方不明』や『東京喰種トーキョーグール』など。10月21日公開の『ミックス。』にも出演。
家入一真 KAZUMA IEIRI
78年生まれ、福岡県出身。起業家。〈CAMPFIRE〉代表取締役社長。〈paperboy&co.(現〈GMOペパボ〉)〉創業社長。〈BASE〉共同創業取締役。50社以上のスタートアップ・ベンチャー投資や、渋谷〈ON THE CORNER〉の経営も。近著に『なめらかなお金がめぐる社会。』〈ディスカヴァー・トゥエンティワン〉がある。
クリエイティヴ志向の高い、監督や役者をフィーチュアする、クラウドファンディングのプラットホーム〈CAMPFIRE〉との映画連載企画。〈CAMPFIRE〉の代表・家入一真を司会に、毎号ゲストを迎え、撮影現場や映画制作について話を伺う。第12回のゲストは、白石和彌監督と蒼井 優。その2人の最新作となるのが、沼田まほかるの小説を原作とする映画『彼女がその名を知らない鳥たち』。本作の登場人物たちは異質だ。中心人物は4人。働きもせず、同居人の佐野陣治(阿部サダヲ)の稼ぎをあてに、堕落した生活を送る北原十和子(蒼井 優)。十和子に異様なまでに執着し、地位もお金もなく、不潔で下品な陣治。自分の性欲のためだけに動き、妻子がありながら十和子と肉体関係を結ぶ水島 真(松坂桃李)。自身の出世や保身のためなら女を道具にさえ使う、十和子の昔の恋人の黒崎俊一(竹野内 豊)。誰も他者と気持ちを通わせていない上に、一方通行な愛、人間の闇、愚かさや憎悪などが浮き彫りになっている。そんな不穏な空気が漂う中でも、彼らの未来を、先を知りたい、と思わせられる、この魅力は何なのか――。それは結末で見える、究極の愛の存在を知った時に分かること。相手に求めてしまいがちな自分が恥ずかしくなるほど、その愛に打ちのめされた。

僕の映画は、基本的にはみ出した人しか出てこないんですよ(白石)

歯を食いしばって、足掻いている人が好きです(蒼井)
バァフ:監督は原作のどのようなところに惹き付けられましたか?
白石:それはやっぱり、沼田まほかるさんの力じゃないですかね。まほかるさんがこの中で描こうとしたのって、究極の愛だと思うんですけど。それを僕がどうしても観たくなってしまったというか。あと、究極の愛というのをいつか題材に、映画を作りたいと考えていたので、この原作だったらできるんじゃないか?と思ったのが1つあると思います。
バァフ:蒼井さんはこの作品に触れられた時は、どんな印象をお持ちになりましたか?
蒼井:原作から読んだんですけど、何でしょう、作品に書かれていることに共感もしないし、不快な登場人物しかいなくて。それなのに、ここまで未完成な大人たちが出てくると、物語がすごく面白くなるんだなと驚きました。不快で仕方ないんだけど、最後の最後に、この長い不快はここのためだったんだということが分かるんです。この感覚を映画でも、お客さんに届けられたらいいなと思いました。あと、白石監督の作品で、こんなにも長く出てくる女性ってあまりいないから、ラッキーって(笑)。長い時間、現場にいられた方が、その監督のことがよく分かるんです。
バァフ:監督のどんな部分が分かりました?
蒼井:全部が終わってから分かったというか。撮影中、監督がところどころで笑っていたんですね。それが何でだったんだろう?と不思議だったんです。私たちは現場にいるから、ある程度の客観性を持ちながら芝居をしているんですけど、監督はお客さんと同じ目線で見られているじゃないですか。だからでき上がったのを観て、監督が笑っていたのはこういうことかって。登場人物たちが、なんだかんだで愛おしいんだなって感じました。
バァフ:演じられている時、客観的な視点を持たれていらっしゃるんですね。
蒼井:客観性を失ってお芝居をしてみることもあれば、自分のあのクセを1本抜いてみようとか、人にバレない程度のことを常に実験して楽しんでいます。ある年齢から、急に実験をしたくなったというか。誰にも気付かれないですけど、それが自分のモチヴェーションに繋がるんです。この映画のとあるシーンも、ある映画で失敗したことを絶対にやらないと意識して演じました(笑)。
白石:それは成功したんですか?(笑)。
蒼井:成功しました(笑)。大したことじゃないですよ、自己満足の世界(笑)。
バァフ:家入さんは、作品を観られて、どんな印象をお持ちになりましたか?
家入:登場人物を見ていると、みんなクズばっかりだなあと感じるところが多くて(笑)。でも、そういうちょっと恥ずかしい部分を持って生きている人って、なんだか愛おしくもあって。陣治なんて普通は誰も共感しないんでしょうけど、惹かれるところがありました。
蒼井:私は、人間として犯罪とスレスレのところにいるんだけど、犯罪を犯せない人が好きなんです。法に反することはもちろんやっちゃいけないんですけど、でも、やっちゃった方が楽になる中、そこをどうにか踏ん張っている人というのがとても魅力的で。時代の波に呑まれかけても、絶対に負けないと、自分が輝いていることすら知らずに、歯を食いしばって、足掻いている人が好きですね。
バァフ:白石監督の映画には、そういうスレスレの人がよく出てきますね。
白石:僕の映画は、基本的にはみ出した人しか出てこないんですよ(笑)。
バァフ:(笑)異様なまでに十和子に執着する陣治ですが、一方通行な愛であろうとも、それでもいいと思えるのがすごいなと。
白石:そうありたいと思うんですけど、なかなかねぇ。人って、愛を求めちゃうから。
バァフ:蒼井さんは陣治のような生き方についてはどう思われます?
蒼井:私は絶対無理です。3日くらいならできる(笑)。陣治の千分の1でも、1万分の1でもいいから、あの純情さがほしいですよね。
バァフ:少しでも持っていたいですよね。監督と蒼井さんは、初めてお会いした時、まずどんな会話をされましたか?
白石:初めてお会いしたのは、台本を読んでもらった後で、原作に描かれている恋愛観をなんとなく話したのを覚えています。
蒼井:その時に、私、「十和子って最低な人間ですね」って言ったんです。そうしたら監督が、満面の笑みで「最低なんです」って(笑)。それで、「あぁ、大丈夫だな」と安心しました。変な理屈を付けて、彼女の悪態のつき方を正当化するタイプじゃない監督なんだって。
家入:監督の作品には、何が正しくて、何が正しくないか?というのが、曖昧なグラデーションで描かれている気がしました。
白石:若松孝二監督のところに入ってから、そういうことを意識するようになったと思います。例えば自分を助けるために人を殺した人がいて、その人はもちろん加害者なんだけど、それは善なのか悪なのか?って。常に表裏一体なんですよね。映画の仕事を始めてから、どうすれば物の見方を中立的にできるか?という問題を考えるようになったんです。
家入:あと僕、すごくリアリティを感じました。阿部さんがご飯を食べる場面で、差し歯を外すところとか、生々しいですよね。
白石:あれはおかしな話で、本来だったら、ご飯を食べる時は差し歯を付けるんじゃないの?と。でも、彼はきっと飲み込んじゃうんでしょうね。そういう細かい設定や造形を用意できたので、陣治は作りやすかったですね。
バァフ:蒼井さんは、完成した作品を観られた時にどんなことを思いましたか?
蒼井:正直、自分が出ている作品って、客観的に観られないんです。それでも、最後にものすごいタイミングで涙が出たなと思いました。最後のシーンは、現場のテンションも良くて。映画を撮るって幸せだなって感じましたね。
家入:最後、十和子は解き放たれたのでしょうか。
白石:解き放たれたと思いますね。タイトルの『彼女がその名を知らない鳥たち』って、何だろうとずっと考えていたんです。で、撮影しながら、あぁ、それは陣治の愛なんだろうなと感じました。
蒼井:現場でも、この後、物語はどうなるんだろう?ってみんなで話していたんです。5年後、10年後のことが気になるというのは、台本として成功している証拠なんだと思います。
バァフ:そうですね。先を想像させる作品でした。あと、クラウドファンディングについてのお話も、伺わせていただければと。
家入:お金がネックで作品を世に出せず、デビューできない若手監督が多いんですね。僕たちのように、それをクラウドファンディングで支援したり、不特定多数、もしくはファンの方々から資金を集めたりすることに対して、監督はどう思われていたりするのかな?と。
白石:そうですねぇ。僕は、日本の映画のあり方って、今、ちょうど過渡期にきていると思うんです。海外に目を向けると、投資家がいて、それで映画が作られている。クラウドファンディングは、それとはちょっと違うかもしれないけど、同じようにやりようはあるだろうなと思います。それでもし成功して、作品も良いものができれば、ファンも増えるし、映画の裾野を広げていくことに繋がっていくことになるんじゃないか、と。ただ、映画って合議制じゃ作れないので、あくまで、才能や企画に賭けてもらうしかないかなと思いますね。それにはより尖った作品を作っていくべきだと思うし、そういうことができる環境を整えることができるのがクラウドファンディングであるなら、僕は大賛成です。
『彼女がその名を知らない鳥たち』
監督/白石和彌
原作/沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』〈幻冬舎文庫〉
出演/蒼井 優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、竹野内 豊、他
〈新宿バルト9〉他にて全国公開中
©2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
INFORMATION OF CAMPFIRE
日本最大のクラウドファンディング・プラットフォーム。本企画の司会、家入一真が代表取締役社長を務める。11月、アーティストの活動をサポートする「CAMPFIRE MUSIC」を法人化。レンディング・サーヴィス「Polca」も好調。詳しくはホームページまで。
camp-fire.jp

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